IPO(株式上場)を目指す企業が監査法人のショートレビュー(予備調査)を受ける際、収益認識と並んでほぼ確実に課題(イシュー)として挙げられるのが「在庫(棚卸資産)および仕掛品の管理体制」です。
税務上(中小企業会計)は許されていたこのような運用も、上場準備においては、「利益の歪みに直結する致命的なポイント」として厳しくチェックされます。
本記事では、ショートレビュー前に押さえておくべき「在庫・仕掛品」の会計論点と、監査法人に認められる体制構築のステップを解説します。
会計の仕組み上、期末の在庫金額(棚卸資産)がズレると、そのまま売上原価および当期の利益額がズレます。つまり、在庫のカウント漏れや評価の誤りは、企業の「本当の儲け」を誤魔化すことと同義になってしまうのです。そのため監査法人は、以下のような点について極めて厳格な証拠(エビデンス)と整備された運用ルールを求めます。
【計算式】
※棚卸減耗損、商品評価損の計上が必要かも検討が必要

① 実地棚卸(カウント)のルール・手順書がなく、証跡が残っていない
法人の大切な資産が適切に管理されているか、厳格に監査が行われます。在庫の管理システムと実際の倉庫にある在庫高は一致しているのか、預り在庫は存在するか(存在するのであればどう他の在庫と分けているのか)、在庫のカウント方法は適切か等、多方面から確認が行われます。ショートレビュー後、上場へ向けた監査の中では、棚卸立会ということで、監査法人の担当者が法人の実地棚卸に同席をするため、その準備としても法人として適切な棚卸の方法を事前に確立しておく必要があります。

② 滞留在庫・不動在庫の「評価切り下げ(評価損)」がされていない
監査では、BS(貸借対照表)に資産として計上する在庫残高について、“本当に資産性を有しているのか”・“資産性が無いということであれば、評価を切り下げましょう”という目線で確認されます。この点は税務申告だけを意識した所得計算の考え方とは異なる部分かと思われます。実際、会計上は評価損として費用の計上が必要でも、税務上は評価損として認められず、損金(費用)に算入ができないケースも存在します。ショートレビュー前に、滞留している在庫の特定、及び評価損の計上方法をルール化しておく必要があります。

③ IT・受託開発における「プロジェクト別原価計算(仕掛品)」が未整備
プロジェクトごとに人件費や外注費を含めた原価の管理が必要となります。比較的、1つのプロジェクトだけに従事する方の人件費を集計→仕掛品に計上する必要がある金額を計算することは容易かと思いますが、複数のプロジェクトに関与している方や、間接部門に従事されている方の人件費集計→仕掛品に計上する必要がある金額を計算することは非常に複雑となってきます。正確な仕掛品計上のためには、システムの導入・運用が必要になってきますが、それにはかなりの期間を消費することが予想されるため、早めの対策が必要となってまいります。

ステップ1:実地棚卸(棚卸資産カウント)のルール化とマニュアル作成
年に1〜2回実施する実地棚卸について、以下の体制を整えます。

ステップ2:評価損・廃棄ルールの策定(棚卸資産の評価基準)
自社の在庫評価に関する規程(社内ルール)を作成します。

ステップ3:原価計算・工数管理システムの導入(仕掛品がある場合)
製造業はもちろん、IT受託開発やコンサルティング業においても、人件費・外注費をプロジェクトごとに集計する仕組み(タイムトラッキングツール+原価計算ソフト)を導入し、正しく仕掛品を計上できる体制を構築します。

在庫や仕掛品の適切な管理は、単に「監査法人対策」にとどまりません。
このように、会社のキャッシュフロー向上や経営管理体制の強化そのものに繋がる重要な取り組みです。
当事務所では、ショートレビューに向けた貴社の体制構築を含め、多方面から上場までのご支援が可能です。